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ナルトたちが任務から帰ってきた。にも関わらず俺はナルトたちに会えていなかった。 「カカシ先生、お疲れ様です。」 声をかけると、途端、カカシ先生は顔を赤くした。風邪でもひいたのかな? 「ナルトの奴、仲間とうまくやれてますか?」 「ま、ぼちぼちね。」 「最近忙しくて、まだ帰ってきて一度も会えてませんから、ちょっと心配で。」 「イルカ先生もご存じの通り、あのうちはサスケも一緒なんでライバル視してはギクシャクしてますけど、結果として実力はバリバリに伸びてますよ。尊敬するあなたに追いつくぐらいに。」 「そうですか。」 言われて俺はぽりぽりと鼻の傷を掻いた。そう言われるとやっぱり照れちゃうんだよなあ。 「あの、イルカ先生はどうしてこっちの受付に?確か以前までは正規の受付でしたよね?」 「あー、ちょっと同僚が入院しちゃいまして、その人の分の仕事もするようになりまして、ここだったら自分の仕事をしていても割りと平気ですから。」 カカシ先生はなるほど、と納得したようだった。そしてポケットからゴソゴソと何かを取り出した。そして机の上にそれを置いた。 「えっと、これは?」 「波の国の海岸で拾った貝殻です。木の葉に海はないから、珍しいと思って。」 「へえ、俺、初めて見ましたよ。貝殻ってこんな風になってたんですねえ。本で何度か見たことはありましたけど、やはり実物は違うもんですねえ。」 俺は思わず手にとってじっくりと観察した。他にも何個かあるのか、カカシ先生は机の上にいくつかの貝殻を置いた。全て形が違う。巻き貝と二枚貝、二枚貝は白いのと桜色のものと、あとは黒く虹色に光るもの。 「すごいですね、木の葉では貝殻なんて珍しいから貴重なんですよ。」 「さしあげます。」 「え?」 「イルカ先生、こういうの、その、好きだろうから、あげます。」 カカシ先生はそれだけ言うときびすを返そうとした。 「ちょっ、ちょっと待って下さい。」 呼び止めるとカカシ先生は素直に止まった。よかった、最初みたいに逃げられなくて。 「あの、今夜一緒に飯でも食いに行きませんか?これのお礼です。」 俺は貝殻を見せて言った。カカシ先生は目を見開いて少しキョドっていたが、深呼吸して何とか落ち着くと、はい、と小さな声で返事をしてくれた。 「ではアカデミーの校門の所に6時、店は俺が考えておきますから。」 カカシ先生は頷くと、それでは、と今度こそこの部屋から出て行ってしまった。俺は椅子に座ると、どこの店にお連れしようか、と頭の中で思い描いた。 「ちょっと待って下さいっ、火影様、一言言わせて下さい。確かに皆、才能ある生徒でしたが、試験受験には早すぎます。あいつらにはもっと場数を踏ませてから、上忍の方々の推薦理由が分かりかねます。」 そこにカカシ先生が振り返って俺をじっと見つめた。俺の睨むような視線をもろともせずに穏やかな目で俺を見ている。まるで余裕だと言われているようでなんとなく腹が立ってきた。 「私が中忍になったのは、ナルトより6つも年下の頃です。」 「ナルトはあなたと違うっ!」 そこでカカシ先生は目を見開いて視線を逸らしてしまった。なんとなく戦いを放棄されたようで先ほどよりももっと激しい憎悪が沸き上がってくる。 「あなたはあの子達をつぶす気ですか!?中忍試験とは別名、」 「大切な任務にあいつらはいつもグチばかり、一度痛い目を味あわせてみるのも一興、つぶしてみるのも面白い。」 「な、何だとっ!?」 「と、まあ、これは冗談として、イルカ先生、あなたの言いたいことも分かります。腹も立つでしょう。しかし、」 「カカシ、もう、やめときなって、」 紅先生がまったをかけるが、カカシ先生は冷たく言い放った。 「口出し無用。あいつらはもうあなたの生徒じゃない。今は、私の部下です。」 感情のない声が室内に響いた。俺の感情ばりばりの声が恥ずかしくなってくる程だ。 「ったくめんどくせー奴らだな、」 アスマ先生が独り言のように呟いた。 そこにガイ先生が割って入ってきた。 「カカシよ、中忍選抜試験はそんなに甘いもんじゃないぞ、お前は焦りすぎだ。イルカの言うとおりだな、俺の班も一年、受験を先送りにしてしっかり実力をつけさせた。もうちょい青春してから受けさせな。」 ガイ先生の言葉に俺はほっとした。上忍の人でも俺と同じような意見を持ってくれている人がいるんだ。それだけでなんだか少し勇気づけられた。強ばっていた顔が少し緩む。 「いつもツメの甘い奴らだが、なーに、お前んとこの奴らならすぐ追い抜くよ、あいつらは、」 「ぐっ、」 ガイ先生が青筋を立ててカカシをキっと睨んだ。 「そのへんにしておけ、」 火影様の制止の言葉で俺は元いた場所に下がった。 それから、火影様の話が終わってその場は解散となった。カカシ先生の姿を探してみたが、もうそこに姿はなかった。すぐに行ってしまったのだろう。なんとなく今は怒りでなく、もの悲しい気持ちが大きくなっている。 「あー、イルカ、」 アスマ先生が声をかけてきた。なんとなく困ったような難しいような顔をしている。そういえば下忍認定試験が終わった辺りからなんとなくアスマ先生はいつも俺の前でこんな顔するようになったなあ。あ、そうか、俺が自己暗示にかかってるって言って病院に連れていったんだもんなあ。何か接しにくいのかな? 「さっきのことだが、その〜、カカシを嫌わないでやってくれないか。」 まるで子どもの仲裁のような言い方に俺は不謹慎にもぷっ、と笑ってしまった。アスマ先生がぽかんとしている。 「もう、怒ってはいませんよ。」 「けど、さっきはえらい剣幕だったじゃねえか。まあ、カカシもカカシだがなあ。あいつももうちょっと大人になりゃあいいのに、あの意地っ張りが。」 俺はにこりと笑うとポケットの中から貝殻を取りだしてアスマ先生に見せた。アスマ先生は俺の掌に載っかっている貝殻を見て、ほう、珍しいもん持ってるな、と呟いた。さすがにアスマ先生くらいの上忍になれば海辺への任務も数をこなしているのだろう。実物を見るのはこれが初めてではないようだ。 「どうしたんだ?これ、」 「カカシ先生にいただいたんです。」 アスマ先生はぶっ、とくわえていた煙草を吐き出してしまった。 「は、はあ?こ、この、ちいちゃな、かっ、貝殻をっ!?」 よっぽど驚いているのか、驚愕に開いた口がふさがっていない。そこまで驚かなくてもなあ。 俺は布を取りだして、持っていた貝殻を丁寧に包んだ。先ほどよりも丁寧に扱ってしまうのに苦笑してしまう。 「そうか、飲みに行く約束をしてたのか。待ち合わせ場所はどこだ?」 「アカデミーの校門の所です、6時に。貝殻のお礼にと思ってたんです。」 「そ、そうか、貝殻の、お、お礼、な、」 アスマ先生の顔がなにやら引きつっている。大丈夫だろうか。 「アスマ先生?」 「わ、わかった。カカシは俺が命に替えてでも校門前に連れて行く。だから絶対に待っててやってくれ。いいな、イルカ、絶対だぞ、約束だからなっ!」 アスマ先生はそう言って慌てて出て行ってしまった。そんな無理矢理連れてきてもらったら、なんだか却って恐縮しちゃうんだけど、でも、一緒に飲みたいと思っていたのは本当だし、ここはアスマ先生に甘えるとしよう。ごめんね、アスマ兄ちゃん。 |